暮らしから考える 世田谷の孤立・孤独|世田谷区議会レビュー 第2回
令和8年第2回定例会より
「近所の人と、最近ほとんど話していない」
そんな暮らしは、決して珍しいものではないようです。
令和8年第2回世田谷区議会定例会では、高齢者の孤立について議論がありました。
その中で取り上げられたのが、世田谷区が実施した「令和7年度 高齢者ニーズ調査・介護保険実態調査」です。
調査を詳しく見ると、近所との付き合いが「ほとんどない」と答えた人は18.9%でした。
およそ5人に1人です。
ただし、ここで注意したいことがあります。
「近所付き合いがない」ことと、「本人が孤独を感じている」ことは同じではありません。
今回は、数字から分かることと、数字だけでは分からないことを分けながら、高齢者の孤立について考えます。
この記事の要点
・65歳以上を対象とした世田谷区の調査では、近所付き合いが「ほとんど付き合いがない」と答えた人が18.9%でした。
・その人たちに理由を尋ねると、「付き合う機会がない」が44.8%、「近所の人と知り合うきっかけがない」が35.4%でした。
・一方で、「近所付き合いが少ない=孤独」「すぐに支援が必要」とは判断できません。本人がどのようなつながりを望んでいるのかも大切です。
今回、区議会で何が議論されたのか
令和8年6月12日の世田谷区議会本会議では、高齢者の孤立を防ぐための取組について一般質問が行われました。
議論の一つが、
「これまでの施策では十分につながることのできなかった、孤立・孤独を抱える高齢者の状況をどう把握し、支援につなげていくのか」
という問題です。
世田谷区は答弁の中で、令和7年度の「高齢者ニーズ調査・介護保険実態調査」の結果を取り上げました。
ここから先は、議会で示された概数だけではなく、世田谷区が公表した調査報告書の正式な数字を見ていきます。
高齢者の18.9%が「近所付き合いがほとんどない」
世田谷区の「令和7年度 高齢者ニーズ調査・介護保険実態調査」では、65歳以上の区民を対象とした調査が行われました。
このうち「調査A」は、要介護1~5の第1号被保険者などを除いた65歳以上の区民から、区内28地区の高齢者比率などに応じて7,000人を抽出したものです。
有効回答は4,600人で、有効回収率は65.7%でした。
近所付き合いについての質問では、回答者4,570人のうち864人が、
「ほとんど付き合いがない」
と回答しました。
割合にすると18.9%です。
【ポイント】
18.9%は「世田谷区の高齢者全体の18.9%が孤独」という意味ではありません。
調査に回答した人のうち、近所付き合いについて「ほと
んど付き合いがない」と答えた割合です。

なぜ近所付き合いが少ないのでしょうか
さらに注目したいのが、その理由です。
「ほとんど付き合いがない」と答えた864人に理由を尋ねたところ、複数回答で、
「付き合う機会がない」 44.8%(387人)
「近所の人と知り合うきっかけがない」 35.4%(306人)
となっています。
ここから読み取れるのは、単に「本人が人付き合いを望んでいない」とは言い切れないということです。
人と知り合う機会やきっかけそのものが少ない人が、一定数いることが分かります。

「近所付き合いがない」と「孤独」は同じではありません
ここは、とても大切な点です。
一人で過ごすことを好む人もいます。
近所付き合いがなくても、離れて暮らす家族や友人と交流している人もいます。
反対に、日常的に人と接していても、孤独を感じている人もいるかもしれません。
そのため、
「近所付き合いがない」
↓
「孤立している」
↓
「行政の支援が必要」
と単純につなげることはできません。
編集台帳でも、この点は明確に区別して扱うことになっています。
世田谷区はどう考えているのか
世田谷区は議会答弁で、高齢者の外出や交流への考え方には幅があり、本人の意向を尊重した働きかけが必要との考えを示しています。
これは重要な視点です。
行政が「人とつながった方がよい」と考えて、一律に地域活動への参加を求めればよいわけではありません。
「参加したいけれど、きっかけがない人」
「人が多い場所には行きにくい人」
「特定の活動には参加したくないけれど、誰かと少し話せる場所はほしい人」
「今は一人でいたい人」
では、必要な環境が違います。
世田谷区の第9期高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画でも、「高齢者の活動と参加を促進する」が計画目標の一つに位置づけられています。
「参加してください」だけでは届かない人もいる
世田谷区では、すでに高齢者の社会参加や居場所づくりを進めています。
一方、令和7年度の第9期高齢・介護計画の取組状況を見ると、「介護予防のための外出・社会参加促進」の取組は、計画を下回ったと評価されています。
第4回高齢者福祉・介護保険部会でも、参加者が目標を下回ったことが報告されました。
区は今後、デジタルポイントラリーの活用や、あんしんすこやかセンター、医療機関などへの事業周知によって、介護予防事業への参加を促していくとしています。
つまり、制度や活動を用意するだけでなく、
「どうすれば知ってもらえるのか」
「どうすれば参加につながるのか」
という部分も課題になっています。
すでに確認できていること
今回確認できた事実を整理します。
世田谷区は、高齢者の社会的孤立の防止などを目的として、居場所づくりや健康づくり、地域参加などの取組を進めています。
また、令和7年度の調査では、近所付き合いが「ほとんど付き合いがない」と答えた人が18.9%いることが確認されました。
さらに、その理由として「付き合う機会がない」「知り合うきっかけがない」という回答が多くなっています。
まだ分からないこと
一方、数字だけでは分からないこともあります。
例えば、
近所付き合いが少ない864人のうち、実際に孤独を感じている人がどの程度いるのか。
そのうち、地域とのつながりを増やしたいと思っている人がどの程度いるのか。
行政や地域からの働きかけを希望している人がどの程度いるのか。
どのような場所なら参加しやすいのか。
こうした点は、今回確認した数字だけでは判断できません。
また、外出や交流への意向が低い人に対して、どのような方法が有効なのかについても、今後確認していく必要があります。
世田谷区民の暮らしとの関係
高齢者の孤立は、高齢者だけの問題とは限りません。
例えば、親が世田谷区で一人暮らしをしている家族にとっても、
「近所に話せる人がいるだろうか」
「何かあったときに気づいてくれる人がいるだろうか」
「困ったときに相談先につながれるだろうか」
という問題につながります。
一方で、本人が望んでいない人間関係をつくることが、必ずしもよい支援とは限りません。
大切なのは、「たくさんの人と付き合うこと」ではなく、
「必要なときに、人や地域、支援につながれること」
ではないでしょうか。
これは記事上の考察です。
今後、確認したいこと
今後の世田谷区の取組を見るうえでは、単に「居場所が何か所増えたか」だけでなく、実際につながりにくい人に届いているかを確認する必要があります。
特に注目したいのは、
・外出や交流を望んでいるのに、きっかけがない人への働きかけ
・地域活動に参加しにくい人でも利用できる場所
・本人の希望を尊重した支援
・居場所や地域活動を知らない人への情報の届け方
・自分から助けを求めにくい人との接点づくり
です。
第10期の高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画の策定も進んでいます。第1回高齢者福祉・介護保険部会は、次期計画への答申案をまとめるための専門的な審議の場として設置されています。
今後、今回の調査結果が次の計画にどのように反映されるのかも確認していく必要があります。
まとめ
世田谷区の調査では、近所付き合いが「ほとんど付き合いがない」と答えた高齢者が18.9%いました。
その背景には、「付き合う機会がない」「知り合うきっかけがない」という人もいます。
ただし、近所付き合いが少ないことだけで、孤独や支援の必要性を判断することはできません。
これから重要になるのは、居場所や活動を増やすことだけでなく、一人ひとりが望む距離感を尊重しながら、「つながりたいときにつながれる地域」をどうつくるかだと考えられます。
次回の第3回では、今回の議論を一歩進めて、
「ただいること」が尊重される場所とは?高齢者の居場所づくり
を取り上げます。
あなたの声を聞かせてください
高齢になったとき、地域とのつながりはどのくらいあると安心でしょうか。
「近所付き合いはあまりしたくない」
「気軽に話せる人はほしい」
「目的がなくても立ち寄れる場所がほしい」
「どこに行けばいいのか分からない」
など、人によってちょうどよい距離は違うと思います。
このテーマについて、困っていること、感じていること、改善してほしいことがありましたら、ぜひ教えてください。
皆さんからいただいた声は、個人が特定されない形で整理し、今後の対話会や政策の整理に役立てます。
地域の対話会を開催しています
「せたがやの声をカタチに」では、地域の困りごとや暮らしについて、気軽に話し合える対話会を開催しています。
初めての方も歓迎です。
聞くだけの参加もできます。
少人数で安心して話せます。
参考になる行政資料
令和7年度(2025年度)世田谷区高齢者ニーズ調査・介護保険実態調査 報告書<区民編>
今回の「近所付き合いがほとんどない」18.9%などの根拠となる調査です。65歳以上を対象とした調査Aは7,000人に発送され、有効回答4,600人、有効回収率65.7%でした。
第9期世田谷区高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画
世田谷区が2024年度から2026年度まで進めている高齢者施策の基本となる計画です。「高齢者の活動と参加を促進する」ことも計画目標に位置づけられています。
第9期世田谷区高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画 取組状況(令和7年度実績)
計画した事業が実際にどこまで進んでいるかを確認できます。54の取組のうち、3件が「計画を上回った」、48件が「計画どおり」、3件が「計画を下回った」と整理されています。
